正規分布(せいきぶんぷ)
英語のNormal Distributionの日本語訳であり、株式や債券、投資信託などの金融商品の価格変動に関し、ある期間における日次や週次、月次など一定刻み間隔のリターン(騰落率)の大きさの頻度が、平均リターン(期待リターン)を中心軸にして左右対称の“釣り鐘”形状を描く度数分布のこと。
正規分布は統計数学で最も代表的な度数分布であり、その形状からベルカーブとも呼ばれる。18世紀~19世紀に活躍した大数学者として名高いドイツのガウスが確率的な意味付けを行ったことから、ガウス分布と言うこともある。金融工学では、正規分布を前提に置いて分析することが一般的であり、オプションの理論価格を求めるブラックショールズモデルも原資産価格のリターンが正規分布する(厳密には、原資産価格自体の変動が対数正規分布する)ことを仮定している。
リターンが正規分布すると仮定すると、「期待リターンの平均±標準偏差」の範囲に収まる確率が約68%になるなど将来のリターンの変動幅を単純化しやすい利点があるが、株価や投資信託の基準価額の実際の変動が正規分布で表せることはほとんど無く、通常、リターンの度数分布は歪みが生じ左右非対称になったり、分布のピークが先鋭化することが多い。特に、金融市場の調整局面でのリターンはマイナス方向に大きく偏り、裾が極端に広い「ファット・テール」という現象が生じる。
理論上、金融商品の価格が過去の変動とは一切無関係に連続的にランダム・ウォーク(不規則変動)する場合には、リターンは正規分布することになる。これに対し、フランス系の数学者マンデルブロは、海岸線のように自然界の形状は不規則であっても、その全体像と一部分は相似形になる性質があるため、同じパターンが繰り返す図形で表すことができるというフラクタル幾何学を金融市場の価格変動に適用。時系列的な過去の値動きに対する価格の再帰性を主張し、正規分布を否定した。
マンデルブロのフラクタル理論は、「パレート分布」や「べき分布」と呼ぶ分布を基にして金融市場の価格変動を分析する「経済物理学」や、正規分布に基づく金融工学モデルでは説明のつかない価格変動が突然発生し、金融市場に大きなインパクトを与えるという「ブラックスワン理論」の拠り所にもなっている。